Awake 14話
156
:Awake 14話(1/18):2013/12/19(木) 03:02:02
「来たか…ネイサン。」
幻覚に惑わされながらも術者カーミラを倒した事で全ての術者を掃討したネイサンは、階段のな
い不完全な建物をひた走り、やがて行き止まりの空間にたどり着いた。
それを示すかのように駒がいる馴染みの青白い扉を開くと、深く沈む様な声とともに展
望閣の玉座の下で静かに振り向く者があった。
何度も城内で邂逅し共闘を望むも、己の矜持を守るため自ら状況を放棄したヒューの姿だっ
た。
その様子に身体を傷付けられておらず、難敵が多いこのエリアで何時もの如く剛毅を誇
った剣技で敵を屠りながら探索していたのだろうとネイサンは考えを巡らせた。
だが、同時に幻覚ではないかと疑ったが、惑わせるような柔和な表情でも様子でもなく、
拒絶された時と変わらぬ険のある表情だった。
とにかく声をかけられた事にネイサンは、アドラメレクに惨敗した時の無残な格好から立ち
直ったのを見て顔面が喜色に覆われた。
「ヒュー!良かった!無事だったのか。俺はてっきり…。」
「てっきり……何だ? 俺が死んだとでも思っていたのか? ……その方が貴様にとって
好都合だろうよ」
「何を言っているんだ!? まさか!?」
「ヒュー、何をする!?」
「…俺の方がお前より優れている…。」
微かに笑い眼をぎらつかせると、有ろうことかヒューはネイサンに向かって抜刀し脅した。
眼の輝きの中に尋常ではないものを読み取ったネイサンは寸での所で躱したが、身を傷付け
られそうになった事よりヒューが己に躊躇なく剣を向け、しかも人を嬲る様な目つきで自分を
見たことに驚きと失望を隠せなかった。
だがヒューは直ぐに笑み掻き消し、頭を横に振り次第に苦悶を表した貌で対峙し始めた。
「お前を倒し、それを親父に証明して見せる…。」
「操られているのか、カーミラに?いや、ドラキュラにか!?」
157
:Awake 14話(2/18):2013/12/19(木) 03:02:59
――俺を攻撃しておきながら悔悟の表情をするとはおかしい。
人の言葉と行動はここまで噛み合わなくなるものか? 操られていたり、吸血されている
とすれば辻褄は合うが、さっき術者であるカーミラを消滅させたんだ、もしカーミラに因るものだ
ったらヒューは解呪されているはずでドラキュラも消滅しているはずだ。
だけど、今現在を鑑みればドラキュラの復活の主導権はカーミラから本人に委譲されたと見るべき
だろう。一度もお前に勝った事が無いのにどうすれば救えるんだ!?
師匠! 魔手に落ちた仲間を救うことはこんなに途方も無い感覚に陥るのですか?
こんな苦しい事……教えて貰ったって理解出来るものじゃない!
「……何故、お前は俺の心をそこまで掻き乱すんだ……?」
自分勝手な感情を口にしていたが、その心は自分が死ぬか、ヒューを誤って殺してしまうか
もしれない予測に対しどうしていいか判らなくなってしまっていたからだ。
「どうした? 来ないのならこちらから行くぞ!」
「止めろ! 何故お前と戦わなといけないんだ!?」
「俺の途に邪魔だからだ。それ以外に何がある?」
「……俺が、お前にとって要らない存在だったのか? そんなの信じたくない!」
ネイサンの叫びもヒューの耳朶をかすめただけで一向に介する事無く冷笑され、ネイサンは二度三度、
追い詰められた獲物の弱腰を嬲る様に切りつけられた。
「消えろ」
「……っ!?」
――本当に容赦ない。修行中の模擬試合とは格段に違う気迫、殺す気だ。
どう攻撃してくるか判断が付かないままヒューの攻撃にたじろぎ、ネイサンは彼の直接攻撃が及
ばない距離まで後退りしつつ攻撃の種類を見極めようとした。
敵に操られている以上、己が知っている方法以外の攻撃を繰り拡げるだろう。
158
:Awake 14話(3/18):2013/12/19(木) 03:04:02
決断したら迅速に行動を起こさなければ時間が足りない。
展望閣に駆け上がる途中の回廊から見えた月は深夜に差しかかっていた。ネイサンがまずい
と思い急いだ理由は、殆どの人間が無意識の世界に引きずり込まれる深夜が一番、魔が人
々を襲うには格好の時間となるからだ。
それまでに復活した真祖がサキュバスなどの夢魔を放ち、人々をほしいままに餌食にしたら
どうか――
「逃げるか臆病者!」
「……!」
――許してくれ。お前を試すような事はしたくないけど、それが嫌なら目を覚ましてくれ!
「うぐっ!?」
「対峙している相手に背を向けるとは格闘の基本すら忘れたようだ。お前にしては珍しく
慢心したか」
「……少し、黙れ。人を嬲るような者に堕したお前の声なんて聞きたくない」
間合いを取るために危険とは思いながらも全速力で駆けだしたが、案の定、クロスを投
擲され背中に数本突き刺さった。
――早さと力は変わらない。与えられたのは何だと言うのか?
クロスを引き抜き、痛みに耐えながら起き上がるや否や、一直線に剣をつがえたまま突
進してきた。だが、まともに食らえば大打撃となる太刀筋も大味過ぎて切れが無く、少し
体を後方へ移動しただけで難なく躱す事が出来た。
――どういう事だ? 動きが大きすぎる。とっさの判断すらできなくなっているのか?
もう一度離れてみるか……何!?
再び駆けだした時、ヒューの剣が残像を帯びて天をも突かんとするくらいの大きさと質量を
もって振り下ろされた。
159
:Awake 14話(4/18):2013/12/19(木) 03:05:16
「うわぁあぁぁぁ!?」
今度は避けられず額に切先が直撃した。瞬時にして肉を抉り出されるかのように粗く裂
かれ、血が噴き出した。止め処なく流れる血を見てネイサンは戦慄した。
「初めて見た……あれは人が与えられる攻撃でもなければ、力でもない。飛び道具だけで
は推し量る事が出来なかったか……見誤った」
流れる血を手で押さえながら視界がぼやけてくるのを感じるも、ヒューの動向を窺い見た先
に石柱があり、その上方に足場がある事を確認した。
――ヒューを避けながら上へ駆けあがった後、足場で回復するか。あの高さは人であれば到底
届かない高さだけど、今の自分であれば難なくあそこまで飛べるだろう。
だけど、ヒューがあそこまで届いたなら俺は容赦なく攻撃され死ぬ。
こんな悲しい事、いつまで続くんだろう。
悪夢だ、性質の悪い冗談であって欲しかった。お前に嬲り殺されるなんて、嫌だ。
血を拭い、足元をふらつかせたが気を取り直して行動を開始した。自分を攻撃するだけ
で当てもない、焦点が定まらないような攻撃を軽く避けながら足場へと飛び上がった。
足場に向かってヒューの上方を飛び越えて到達した時、石柱を背に振り返って彼の姿を見た。
表情には怒りの表情しか見当たらなかった。これほどまでに激しい怒りを今まで向けられ
た事はなかった。
だが、冷静さを失い悪鬼の表情をして、自分を追い詰めている彼の姿を目の当たりにす
ると、自分が聖鞭を継承した事でこうなってしまったのに、心を痛めた以上に怒りに任せ
て自分を攻撃してくる状況に居た堪れなくなった。
自然と涙が溢れた。失望で心が潰されてしまいそうだった。
「膂力だけ強くても、動きが伴わないお前なんてお前じゃない!」
その声を聞いたのかは分からないが一瞬、ヒューが歩みを止めビクッと身震いしたように見
えた。
もちろんヒューが声に応えた訳ではない。だが、ネイサンは彼の深層が動きを止めたと思いたか
った。少しの仕草でも自分の声が彼に届いたと感じた事に少し、心に落ち着きを取り戻し
た。
160
:Awake 14話(5/18):2013/12/19(木) 03:06:28
一緒に彼も追ってくるかと思ったが、飛び跳ねて斧を投げつけてきたぐらいで跳躍力は
変わらず人のままであった。その様子に嬲り殺される可能性はなくなったと安堵し、カー
ドの力でしばらく傷を治癒していった。
――今まで遠隔攻撃の状態を見ていたけど、今度は近接戦闘であいつのペースをずらして
時間を稼ぐか? 通常なら無理だろう。でも、操られているなら退魔の文言であるラテン
語聖句を詠唱する事で、その隙を突く事は出来ないだろうか?
さっき突進した時に避けられても進行方向を変えられないほど動きが大雑把だったんだ、
打撃に特化した攻撃のみであれば注意力は散漫になっていると思う。賭けてみるか。
やがて、額の傷もある程度塞がり痛みも引いた。これで視界が血まみれになる事もなく
なった。
そのまま床に降りると攻撃されるのは必至なので、ヒューが後ろを向いた隙に静かに降りた。
無論、瞬時に気づかれて剣で攻撃されたが、予想通り通常攻撃の剣技に鋭さが見られず
剣捌きの間合いに入る事さえ容易に出来た。
――よし、一か八かだ。
ヒューに聞こえるようラテン語で退魔の聖句を唱え始めた。すると、見る見るうちに動きが
鈍化していった。
「……!」
――やっぱり……効果はある。良かった、吸血された証である灼眼にはなっていない。な
のに、ラテン語聖句を聞いた程度で攻撃速度と膂力が一瞬だけど停止している。
そうか、術者の闇の部分が表出しているから、その綻びから来ているのか。降霊術のよう
な何か代償を用いた一時的な催眠術みたいだけど、効力に関しては人間が行なうより相当
強力な暗示が掛かっている。
それなら身体の動きを徐々に止めて解呪する手を考えよう。
まずは、攻撃手段である剣を聖鞭で絡め取り瞬時に押し倒して、正気に戻るまで聖句を
耳元で唱え続けたらいいのではないかと考え付いた。それに、組み伏して体重をかけ、羽
交い絞めにすれば首を絞められる事もない。
ネイサンは予測を立て剣身に聖鞭を絡ませたが、引っ張っても腕が伸びるだけで離れない。
「柄と手がくっ付いたように離れない……」
161
:Awake 14話(6/18):2013/12/19(木) 03:07:10
だが、操られていても無駄な動きをしている間まで止まっている相手ではない。すぐに
剣を振り下ろされ、逆にネイサンが弾き飛ばされた。
「やっぱり、攻撃して体力を削らないと動きが止まらないのか!」
――聖句を唱え続け、あいつの身体を傷付ければやがて動きは止まるだろう。だけど、攻
撃によって命を奪う寸前まで来たら俺はどうすればいい!? ヒューの首筋や胸部を見たら吸
血痕は無かったし、クロスを平気で扱っていた。灼眼にもなっていない。
膂力は借り物でも、人のままだ。その彼を殺したら、俺は人殺しだ。愛する者をこの手で
殺すのだ。失った時の苦衷と後悔はいかばかりであろうか!
だから人として俺に対峙させたのか、ヒューを!
「それに……人の力で無いマジックアイテムを用いている俺に、人として対峙しているお
前を倒すのは、卑怯以外の何物でもない。逆に俺が化け物だ」
――悲しいかな、この城を出るまで外れてくれないらしい。目的を果たしても人の意思に
関わらず、呪いの様に体に絡み付いている。文字通り利便さを持ち合わせた魔性の道具っ
て訳か。
だが、攻撃しないとネイサンの方が無残にも嬲られてしまう。どうしようもない状況に悲痛
な声を上げ、落涙し、対峙するしか彼には方法が残されていなかった。
「許してくれ……早く……っ、目を覚ましてくれ!」
対峙し、間合いを詰めて攻撃を始めた。予想通り、ここから先は何の障害もなく一方的
な攻撃が展開されるだけだった。
ラテン語聖句を唱え、動きを止めた隙に叩きつけるように聖鞭を振った。当然、ヒューの服
は裂け、切り裂かれた皮膚から血が飛び散り、打擲するたびに絨毯に何度も滴った。
それでも彼の洗脳は解けない。動きは止まらない。
ネイサンによって動きを封じ込められたにもかかわらず、空しい攻撃を続けている。
――もう……嫌だ。どうして気絶してくれないんだ。これ以上攻撃したらお前の骨や腱を切
ってしまうじゃないか……どうして平然と攻撃を受け続けるんだ……?
ネイサンは泣きながら聖句を唱え攻撃を続けた。それでもヒューは倒れない。失血で顔が青ざめ、
ようと、当たらない攻撃をネイサンに繰り出しているだけだった。
162
:Awake 14話(7/18):2013/12/19(木) 03:08:37
ヒューが普通で無い姿に変化していくごとに、ネイサンの心は張り裂けそうになった。いや、今
すぐにでもこの状況を終わらせたかった。
やがて、ヒューの体は失血から動きが不安定になってきた。それからようやく体の軸がぶれ、
崩れ落ちるように昏倒した。
「……これで、これで終わった。ヒュ……」
声を掛けた瞬間、白い魔方陣が中空に現れた。すると、その魔方陣にヒューの体が吸い込ま
れるように浮き上がった。
明らかに意識が途切れた状態で発生したので、ヒューが構築した魔方陣では無いのは判った。
「消えろ!」
真祖がヒューの体力がなくなる前に解呪されないよう仕掛けたものだろうと考えると、確実
に解呪出来ないまま自分にヒューを殺させようと言う肚が見え、人の気力を削ぐ目的で発動し
たと思われた。
確認が取れない予測だが、それでもそう考えると神経を逆なでされたように憤りを感じ
た。
もしそうなら闇の部分があるはずだから聖属性のクロスを使えば消滅するのではと思い
魔方陣に投擲したが、さしたる効果もなく全ての攻撃も透過した。
やがてヒューは再び生気が漲ったように覚醒し、中空から絨毯に降り立った刹那――素早く
剣をネイサンに向って振り下ろした。
先ほどまで顔面蒼白で、失血による口唇の変色が認められる顔からは想像がつかないほ
ど回復したように見えたが、よく見ると出血や打撲痕は酷く、裂かれた傷を刻んだまま攻
撃を繰り出してきた。
「……もう、止めてくれ。これ以上、動かないでくれ!」
無残な姿になっても自分を追い詰める狂気に、ネイサンは身も心も圧し潰れそうになった。
もしかしたら、ラテン語聖句を唱えたことによる拒否反応から、彼の精神が開放するの
を抑制するため防護壁が発動したのかと予測を立てた。
そう思うと今まで自分がしてきたのは何だったかと判らなくなり、一瞬、気落ちと疲労
でよろめいた後、通常攻撃の範囲内から少し後退してしまった。
だが、間合いから外れた一瞬で遠隔攻撃が発動し、今度は無数の剣が彼に襲いかかった。
「……っ、一瞬の油断も見逃さないか」
163
:Awake 14話(8/18):2013/12/19(木) 03:09:51
その剣も聖鞭で叩き落とせばすぐに消散したが、一つだけ遅れて追尾して来た短剣とナ
イフが体に突き刺さった。
「!? さっきの巨剣と同じぐらい強い……!?」
ナイフが突き刺さってもそこまで致命傷とはならなかったが、短剣は掠っただけで大量
に血を噴き出させるくらい傷を押し拡げた。
ネイサンは痛みに耐えながら観察すると、短剣は彼を追尾攻撃した後すぐに球体へと変化し、
ヒューの体内に入り込んでいった。
その上、ヒューの傷口が硝煙を伴い、少し塞がって行くのが見えた。
――俺を傷付けたらその分、回復すると言うのか……どこまで堕ちたら気が済むんだ……
「それでも俺は、お前を解呪出来る事を信じたい!」
彼は愕然としながらも今度はヒューの繰り出す通常攻撃を躱し、間合いを詰めるとまたラテ
ン語聖句を唱え始めた。
――魔方陣が発現したのであれば、それなりにダメージを受けているはずだ。現に、さっ
き付けた傷は完全には治っていない。攻撃を続けていたら気絶するかもしれないけど、今
度ばかりは死んでしまうかもしれない。
「体力を削れると判った以上、お前の動きが止まるまでやり続けるしかない……っ」
――お前は人のままだ。だけど解呪出来ないまま死んでしまったら、そのまま遺体を安置
する事は出来ない。真祖がいる限り復活する可能性がある。そうしたら、心臓に楔を打ち、
腱を切ってしまわないといけない。頼むから、お願いだから、俺にそんな事をさせないで
くれ!
「目を覚ましてくれ! お願いだから!」
目を瞑り、涙を流しながら再び攻撃を始めた。彼の肉体を打擲し、切り裂き、血を何度
も迸らせ、絨毯や服、肉体に流れる血が濃く固まっても力を奪い続けた。
打撃を与えるたびに何度も同じ言葉と想いを泣き叫び続けた。
自らの手で傷つけ続けるたびに、自分の心が壊れていくようだった。
164
:Awake 14話(9/18):2013/12/19(木) 03:12:31
やがて振り下ろした鞭の鋭い音と、筋が断たれた鈍い音が同時に質量を以って重く響い
た。その音がヒューの行動の一切を奪った。
肉を切り裂かれ筋を断たれた肉体は、どんなに気力があっても維持できるものでは無か
った。打擲され吹き飛ばされて、床に体を叩きつけられたままヒューは昏倒した。
それでも気丈にも手を虚空に翳し立ち上がる素振りを見せたが、意識が切れてそのまま
の恰好でしばらく動かなかった。
「やめてくれ!お前をこれ以上傷つけたくない!ヒュー!!」
肉を断った音にネイサンは自らの行為に戦慄を覚えた。もう、心は限界に近かった。
すでに頭の中は後悔と自責の念で真っ白だった。言葉にならない叫びを泣きじゃくりな
がら発した。だが――
「ネイサン?ウウッ、お、俺は…。」
――生きている……正気に、戻ったのか……?
完全に白目を剥き絶命しかけたヒューの肉体は神に懇願を受け入れられるかのように、明確
に生き永らえるのを許され再びネイサンの名を呼んでくれた。
ヒューは大きく息を吸い、深く嘆息しながらゆっくりと瞼を開いた。ネイサンは介抱しようか
迷ったが正気に戻ったかどうかが分からず、近寄りたいと思っても足が竦んで動けなかった。
いや、再び攻撃されたら自分の身を守るために今度こそ殺してしまうのは目に見える。
だから静観するしかなかったと言うのが正しいだろうか。
「…ありがとう…聞こえたよ、お前の呼ぶ声が…。」
「…ヒュー。大丈夫か?」
――城内で傷つき、独りよがりの言動を俺に向けた姿の見苦しさを見ても、お前を完全に
軽蔑するまで至らなかった理由がこの戦いでようやく解った。
模擬戦では力を加減して対峙していたのではなく、無論互いに殺し合う位の粗野な感情
を持ってではなかったけど、それでも膂力がなく漫然とお前に立ち向かっていた俺を徒に
嬲るような扱いではなく、実力の差を受け止めた上で、いつも一人の人間として対峙して
くれていたのだ。
その感情は歳を重ね生きていくには不便なもので、知らず知らずのうちに削り取られてい
くのに、戦う毎に己の心のままでいられる孤高の理想が眩しく輝いていたからだ。
165
:Awake 14話(10/18):2013/12/19(木) 03:13:06
しばらくしてヒューは自ら体を起こし、体の痛みに耐えながらその場で蹲ったまま彼を仰ぎ
見ると、微かに笑い自嘲するように真っ直ぐ彼を見た。
「ネイサン…俺はお前に嫉妬していた。」
「!?」
「親父がお前を認めることで、俺が要らない存在になるのが怖かったんだ。ただ認めて欲
しかった…。」
そう恥部を曝け出しながらヒューは表情を歪ませると、自然と涙があふれてきた。
「それはお前を始め他者を認めず、それに気付かず歳を重ねるごとにただ己の矜持と独善
を護ろうとした偏狭で愚かな感情だったのだ。それを毀したくない一心であらゆる手段で
他者を傷つけ続けた……」
「もういい…。」
「そんな心の闇を、親父は見抜いていたんだろう。だからお前を…。」
「よすんだ。」
ネイサンは言葉を遮ったが、ヒューは己の言葉を紡ぎながら後悔と羞恥を噛みしめ始めた。
「いいんだ。今では愚かな俺にも親父の選択が正しい事が良く判る。」
――そうだ、俺だって人を補佐するなんて出来ない事は無いが、采配を取っている人間が
自分より判断が遅く、的確でないと判別した時点で俺が上に立ち指揮権を取ってしまうき
らいがある。
目的遂行のためにはやむを得ない事から表立って言う者は居なかったが、陰では不遜だ、
尊大だ、驕児、小童如きがと何度耳に痛い言葉が入ってきたか。
その批評に親父は俺とチームを組んだハンターから聞いた情報を擦り合わせ、度を過ぎた
行動があったなら俺に注意していたが俺は「生き残ったのだからいいだろう」と知った風
な口をきいて自ら飛躍するチャンスを何度も逃していた。
いや、親父以外に一人だけ面と向かって言い放つ者が居たな。いつも俺の後ろにくっ付い
て来る臆病者の癖に、人に意見する事だけは対等にしてくる奴が。
166
:Awake 14話(11/18):2013/12/19(木) 03:13:56
そう回想しながら、ヒューの脳裏にネイサンとの実力差が明確にあった頃の問答が浮かび上が
ってきた。
――「あの時点で指揮権を強奪するように取ったら、誰だって文句の一つでも言いたくな
るぞ」
――「じゃあ、側面に回り敵の視界を一瞬でも消失させなければ、正面から突撃するばか
りではこちらがダメージを被ってしまう。お前だって判っていただろうに」
――「それは……」
――「やり方と言い方が拙かったと言いたいのだろう? 俺も本当は精一杯だったんだ。
外から見ていたから判断できたのであって、当事者だったら俺でも動けたかどうか……そ
の上、己の役割の中で、今回は補佐の立場で彼を援けなかったと言うのが最大の失敗だっ
たな……はっ、今のは誰にも言うなよ!? 恥ずかしい上に外聞が悪いから」
――「お前が他人にその手の事を言わないのは知っている。そして俺が誰かに言うなんて
思っているのか?」
――「言い訳したばかりか気まで遣わせて悪かった……」
……いつも俺の傍にいて俺のために諫めてくれた人間の存在と言動を忘れてしまっていた
とは、いよいよ持って焼きが回ってきたな。
人は一人では事を成せない、だからこそ三人のチームで魔を狩る事が出来るのだ。と、こ
の状態になって親父の言葉が痛烈なまでに身に沁み入るとは、何と辛辣な皮肉だ。
補佐してくれる大事な仲間が傍にいないだけで、どれだけ周りが見えなくなった事か。そ
して、補佐をする者の重要さを長きに渡って軽んじていた自分自身の愚かさが、どれほど
滑稽でおかしな姿を晒していたか。
そんな今にも泣きそうな顔をするなよ、お前も傷を負っているが俺はそれ以上に血が流れ、
お前に打擲された傷は服に触れるだけでとても痛いんだ。俺の方が痛みでまた気絶しそう
なくらい痛いのに。
それから今まで勝てなかった俺に完勝したんだ。もっと喜べよ。それが出来ない奴だから
お前の存在に安堵するのだろうな、我ながら情けない感情だ。
167
:Awake 14話(12/18):2013/12/19(木) 03:14:58
「フッ…これ以上、俺に恥をかかせるな。」
一瞬、瞼を軽く閉じ首を下へ傾げたが直ぐにネイサンの顔を仰ぎ見て微笑んだ。しかし、そ
の両頬には赤い豪奢な絨毯の繊毛を赤黒く染めるほど止め処もない涙が伝い、まるで光を
見つめているようだった。
そう見られる事に後ろめたい感情を抱いていたネイサンはヒューの眼差しを直視できず、聴き続
けるには心苦しかった。
むしろ、何も言われず押し黙ってくれていたほうが、幾分かましな心持ちになっていた。
「お前は俺の告解を何故押し止めようとするんだ。初めてこれだけ曝け出した俺の弱い部
分を聞けないというのか? そうか……親父を助けるのに無駄な時間を取らせてしまった
ことに腹を立てているのか。そうだな、責められても仕方ない」
「違う! 俺が原因でお前が自分自身を卑下して傷つけている姿を、これ以上見たくない
んだ! それに断罪なんてもっての外だ!」
――告解だと? お前の体を傷付け、矜持を粉々に打ち砕いた俺はお前の後悔を受け止め
るに値しないと言うのに、それでも青眼を向けてくれるのか? あぁ、そんな貌をしない
でくれ、俺はお前を――
「……ただ、愛したいだけなのに、愛しているのに……手を差し伸べたいのに、お前が自
分自身を傷つけているのを知っていても俺がどうすることも出来ないのが悔しい。それな
のにお前が俺に自分を卑下している科白を吐けば、側にいるのに援けられない事実に打ち
のめされるから……」
「……愛している?」
想いの丈を叩きつけた言葉の中に、己の苦衷と恋情が溢れ出てしまったのをヒューに聞かれ、
ネイサンは一瞬にして青ざめた。
この想いは自分の心の中に秘匿しておくものであって、一生曝け出すつもりはなかった
とそう思っていただけに、言葉を回収したい心境が次の瞬間には言葉を詰まらせてしまっ
た。
168
:Awake 14話(13/18):2013/12/19(木) 03:17:00
「言葉を濁そうとするな。もう一度訊くぞ。愛していると言ったのか?」
「……」
――答えるべきか? 迷うな。ここまで訊かれているのに。だけど後ろめたい気持ちはあ
るが愛しているのは間違いない感情だ。それに自分がこの先、言えるチャンスは無いかも
しれない。それなら……
「……そうだ。お前を愛している。その気持ちと言葉に嘘偽りも、躊躇いも無い」
直接本人から「愛している」と言われ、ヒューはどう言葉を返していいものか、無論、泣き
そうな表情をして青褪めた顔で、切なく呟いている彼の想いを即答で拒絶するつもりはな
かった。
「知らなかっただろうが、お前が俺に師匠の事で嫉妬していると言うのなら、これが俺の
お前に対する感情だ」
「……知っている」
「……え?」
ネイサンは己が秘匿していた感情を事も無げにヒューが理解し認識していた事に、全てを見られ
ていたからこそ嫌悪を向けられていたのかと心が抉られた。
どこまで知られているのか分からない事にネイサンは不安を感じ、生唾を飲み込んで冷や汗
が顔から流れた。
「この状況で鳩が豆鉄砲を喰らった様な間抜けなツラをして俺を見るな。お前が毎朝、謝
りながらも俺の寝覚めを掠め取っているくらい思いつめた恋情を抱いている事なんて知っ
ている」
「人が悪いな。いつから知っていた?」
――あれだけ長い間、朝から唇だけとは言え求めたんだ。寝ていても気付かない訳ないじ
ゃないか……我慢していたのか。
高ぶった感情を抑えるためとは言え、ネイサンは自分が行った所業を思い出し今度は一気に
顔面が紅潮した。
169
:Awake 14話(14/18):2013/12/19(木) 03:19:35
その様子を見て、ヒューは軽口を叩いた自分の言葉が彼の挙動を変化させている事に気付き、
意地悪が過ぎたかと内容を濁して言葉を続けた。
「……さあな、だが、お前がその恋情と思慕を言う相手は違うのではないか?」
「は?」
「その感情と言葉は俺ではなく生きて親父に言ってくれ。何故俺なんだ」
それから息をのみ、一呼吸置いてからやっと、長年の疑問をヒューは声を出して尋ねる事が
出来た。
それに対し、何故そのような事を考えるのか意味が取れないネイサンは、逆に自分はヒューにそ
う言った感情を抱かせるほどモーリスに接触していたのかと、混乱して彼に聞き返した。
「何……だと? 俺は! お前しか見ていなかったのに。どうしてそこで師匠が出てくる
んだ!?」
「だけど、お前は毎日『ごめん』と謝ってから……」
「謝っていたのはお前と師匠を巻き込んでしまう後ろめたさがあったからだ。それ以外に
理由は無い」
「そうだったのか? 親父の依代としてではなく俺自身を見ていてくれただと?」
ヒューはその言葉を本人の口から直接聞くまで懐疑的な感情で、絞り出すようなネイサンの告白
を聞いていたが、ネイサンが感情を顕わにし、見据えるように人と対峙する様子を見せた事で
本気なのだと認識した。
「人を依代にするほど俺は人でなしじゃない。何故そんな風に思ったんだ?」
「俺は自身の人格と精神に自信が無かった。人は能力と実績だけで対面している人間の価
値を判断する。自ずとそのように振舞って来ただけで、それを差し引けば俺には何も残っ
ていない事は自覚していたから誰も人格など愛してくれる人間はいないと、心の奥で思っ
ていた」
同時に自分に向けられた純粋な愛情を受けどう返していいのか、ヒューは正直困っていた。
だが、困惑した表情を見たネイサンは、自分の行動を知られている以上に歪んだ形でその恋情
を認識されてしまっていたかと思うと、ふつふつとやり場のない腹立たしさを覚えて、一
気に自分の想いを彼に対してまくし立てた。
170
:Awake 14話(15/18):2013/12/19(木) 03:20:21
「だから俺の想いをお前自身に向けたものじゃないと判断した……? ふざけるな……」
「ネイサン……?」
「十年前のあの日、カルパチアの麓でお前が俺のために泣いてくれた優しさは忘れない!
修行中、そして戦闘になった時、死にそうに怯えている俺に、いつも手を差し伸べてくれ
たお前の安堵した貌は本物だった! そんなに自分を卑下しないでくれ。必要以上に虚勢
を張らないでくれ」
もっとも殆どの他人には、ヒューが自分自身を卑下しているとは到底思われないだろうが、
己の能力に恃み、誇示し続けるのはまさしく他者の評価を懼れ、自身を否定されたくない
と思っている者の証左であると、ネイサンにとっては解っていた事であった。
しかしそれはヒューの本来の人格さえも覆い隠してしまうほど、周りの期待が幼い身を徐々
に蝕んでいった結果によるもので、やがて己の行動規範すらも他人の目から見て違和感が
無いかどうかで判断する様になって行く過程を、ネイサンは十年間共に過ごした事で何度も見
てきた。
だからこそ自分よりも優っていても守りたい、必要とあれば諫めてでも援けたいと思う
ようになったのを、言葉を紡ぐごとに改めて感じていった。
「俺がお前の傍にずっといるから。外に向けて虚勢を張るんだったら……いつでも聞くか
ら」
「お前、それは友情の中で考えても良いんじゃないのか? 何も恋情が介入するものでは
無かろうに、同性だぞ? 死刑が怖くないのか?」
「駄目なんだ、何度もそれは考えた。だけど俺は他人には見せない俺にだけ見せるお前の
姿が愛しい。独り占めしたい。お前と生きていく時間が長ければ長いほど、お前の痛みが
深まれば深まるほど救われた立場なのに護りたいんだ、欲しくなるんだ」
渇望した。狂おしいほど渇望し手に入れたいと何度も願った。自分でも驚くほど言葉を
詰まらせず言えた事にネイサンは、目の前の相手がどのような表情を見せようと長年の苦衷を
込めて切々と言葉を重ねた。
「それに、独占したいなんて感情のどこに友情が介入するように見えるんだ? 確かに俺
は常にお前との間に対等で理性のある関係を持ちたいと思っているけど、それだけじゃ済
まないんだ俺にとってのお前という存在は」
171
:Awake 14話(16/18):2013/12/19(木) 03:21:48
――城内で見せられた幻惑こそ、自分自身の欲望だと改めて気づかされた。どう足掻いて
も俺はお前に恋情を抱いているだけじゃなく、明確な性愛をも抱いていることを。
「気持ち悪いと、下種だと罵ってくれてもいい。だけど、これ以上俺はお前に自分の気持
ちを隠したくない。最後まで……聞いてくれてありがとう」
――最後までか。ネイサン……死ぬ気か?
「そのまま儀式の間へ行くのか?」
「?」
「あの扉は呪術だけで封印されているのでなく、物理的にも封印されている。だから鍵は
存在する。奥の扉に黄金色の鍵が置いてある。行け。俺に構うな」
ヒューは傷ついた自分を心配して、動けるようになるまで待っているような風情がネイサンの態
度に見えたので、その感情は嬉しいが敢えて念を押すように、傷ついているのは自分だけ
ではないと認識させるためモーリスの名前を出した。
「親父を…師匠の手助けをしてくれ。頼んだぞ。」
「分かった。」
そう言って、ヒューに背を向けゆっくりと宝物庫へ歩き出すネイサンは振り向き、全てのわだか
まりが消えた静かな笑顔をもって彼を見た。
「答えはまだいらない。だから、今はそこにいろよ! 一緒に生きて城から出よう! も
ちろん全員で!」
「……ああ」
――そうは言うが、足手纏いの俺を連れて敵と対峙しながら移動できるほどお前には余裕
など無いはずだ。甘いな。
ネイサンが儀式の間に通じる鍵を取りに宝物庫へ入った後、ヒューはどう考えても戦力として役
に立たない自分の身を彼の前から消さなければ、意地でも行動を共にしたいとネイサンが願う
事で結果、共倒れになる虞があると予想し、すぐに展望閣から駆け出した。
それから、ある事の準備をするために、傷だらけの身体を庇いつつワープゲートへと急
いだ。
172
:Awake 14話(17/18):2013/12/19(木) 03:23:43
「戦って判った。ネイサン……お前は人の身で在りながら魔性の力を己の物にして、くっ……」
断裂しかけた足を庇っているせいで真っ直ぐ走る事が出来ずに、時々壁の方によろけな
がら、だが今までとは違い自分を愛してくれる者を助けるため、そして自分以外の人間を
心から救いたいという明確な目的を持って、一歩、また一歩を迷い無く己を信じて踏み出
していた。
「いや、向かってくる力そのものを受け流し自壊させる術を、いつの間にか習得出来てい
たんだな」
――人の世界ならいざ知らず、魔性の跋扈する世界では人の力に毛が生えた程度の力で感
情の赴くままに立ち向かう事自体が愚かだ。
俺は知らない世界で卑小な感情を以って粋がっていただけに過ぎん。
「だが、後悔している暇は無い。俺は俺にしか出来ない事であいつを、ネイサンを援ける」
――そして……生きてあいつの想いに今度は俺が応える。
親父以外に兄弟でも無いのに俺の我儘も暴言も全て包み込んで、あんなに成った俺を殺さ
ずに目覚めさせたあいつの想いを無駄にしないためにも、今ここでくたばる訳には……
胸に手を当てヒューは切にネイサンの身を案じ、微かに笑いながら一瞬立ち止まった。
「それに、今は俺の事など気にせずに早く親父の許へ向かってくれ」
だが、その隙を突いてダークアーマーが彼の背中に向けて黒い煙を剣から発した。
察知した彼は振り向き様に黒煙を躱わして、ダークアーマーの腹部の鉄帷子に剣を素早
く刺し貫くと、思考を中断された苛立ちをぶつけるかのように、その身体を足蹴にして剣
を引き抜いた。
「退け! 塵に還れ!」
そして、迫りくる魔物を蹴散らしワープゲートの間へ辿り着いたヒューは、天井を仰ぎ見な
がら自嘲した。
「親父……あんたの目は慧眼だったよ。何時ぞやは不見識だと散々詰ったが、その馬鹿で
蒙昧な暴言を吐き必死に諭そうとした気持を汲み取れなかった俺を、あんたは赦してくれ
るだろうか?」
言い終わった後、穏やかな顔でワープゲートの光の水面に指先から浸し、そのまま己の
全身を委ねるように決戦の場所、全ての始まりの地へと続く凱旋回廊へ向かうため、ヒューは
光の渦の中へ呑まれていった。
173
:Awake 14話(18/18):2013/12/19(木) 03:24:34
ヒューの存在を背に扉を開けたネイサンは扉を閉めると急に足が震えてきた。
「言った……とうとう言ってしまった」
――戦闘中に陥る不安感から言ってしまったのだろうか? 死を覚悟した状況から吐露し
た言質か。いや、この場合は遺言といった方が正しいか。
「俺は卑怯者だ。もし俺が死んでヒューが生き残ったら、あいつの心に楔を打ったまま逃げて
しまう事になる……これでいよいよ持って生き抜かないといけなくなった」
――師匠、申し訳ありません。あなたに育てられた恩を、とうとう仇で返してしまう事を
行いました。
ネイサンは軽く頭を垂れると両眼を細め眉根をひそめて、最後の宝物である黄金色の複雑な
形をしている鍵を見た。
手に取ってみて自分の掌に納まらないくらいの長さと重さがあった。そのさまは一人の
人間の生命と人々の命運を握るには軽過ぎるかも知れないが、自分の想いと自分と共に過
ごしてくれた人々の事を想いながら強く握りしめると、愛する者が待っているであろう空
間に足を踏み入れた。
「待たせたな、ヒュー。あれ?」
広間に彼の者の姿は見えなかった。最後の戦いに不安を感じていたものの、一緒に脱出
できると半ば安堵と嬉しさを噛み締めていた後だったのでネイサンは落胆し、小声で呟いた。
「おい、どこへ行った?」
――くそっ! あんな身体で人の手を借りずに動き回るなんて死ぬ気か? もし死んだら、
俺は何のためにお前と戦って傷を負わせてまで正気に戻したんだ!?
「師匠……ヒューを死なせてしまったら俺は、あなたを助けた後に何と言っていいか分からな
い。だけど、もう直ぐです。とにかく、それまで正気を保っていて下さい! 師匠!」
鍵を握り、歯を食いしばると、そのまま儀式の間を目指しネイサンは駆けだした。