住めば都のキャスバニ荘

 

2 名前: 住めば都のキャスバニ荘 投稿日: 2006/04/04() 22:02:38


これは偶然という名の運命のもと、良くも悪くも巻き込まれてしまったある意味非凡な
青年と、その周辺の愉快な仲間たちによる決して一辺倒にはいかない感動物語!
…の筈である。

「閉店…ですか?そりゃまたどうして…せめて俺が卒業するまでは続けてくださいよ」
今日とんと見掛けなくなった緑の公衆電話に、青年は齧りついていた。
相手との会話を必死に繋ぎ止める度に彼の財布から100円玉が消えていく。
季節は夏。一月だけ開放された学生たちの地上の楽園。
中には金銭を稼ぐための労働に身を窶し、最高の夏を過ごそうと希望に燃える者もいて、
彼は今まさにその希望を打ち砕かれていた。
『そうはいってもねぇ、真正面に大手チェーンが出来ちゃ、うちみたいな
個人経営は店を畳むしかないし』
「悪いね。」そんな台詞を最後通牒として電話の相手との通話は切断された。


「くそぉ…不況が去ったと思ったら弱肉強食の時代に突入かよ…」
無情にも電話を切られた後、青年はいくつか思い当たる働き口を探し始めた。
ペラペラと求人雑誌を捲る音だけが、騒がしい外から隔絶された
冷たい電話ボックスの中で響く。

「バイト、どっかに落ちてないかな。また探すのは面倒…」
「バイトをお探しですか、お兄さん!」
青年のその一言が、何かを呼び寄せてしまったらしい。
電話ボックスの向こうには、
可愛い女の子が立っていた。

「うん、探してるけど。お嬢ちゃんは?」
「私、マリアっていいます。ウチの新商品・「ベルモンダー変身セット」のモニターアルバイトしませんか?」

大きな瞳はクリクリと愛らしく動き、豊かな金髪を纏める為の大きなリボンが
夏の爽やかな風に吹かれフワフワと揺らめいている。悪人である可能性は低い。
青年はそう判断した。だがその女の子はどうみても134の…子供。
(ウチの新商品…って、多分社員の子供かなにかなんだろうが…
子供にまで営業活動させてるのか。)

青年はこう判断した。
『この少女の親が働く会社は潰れかけであると。』

(モンブランダー…とか言ったか。オモチャは流行り廃りが激しいからな…)
「どうしたんですか、深刻な顔して。ベルモンダーはウチ…ヴェルナンデスカンパニーが
銀河連邦警察特殊犯罪課…通称「ハンター課」に採用されるべく考案した
正義の味方なんですよ。」

3 名前: 住めば都のキャスバニ荘 投稿日: 2006/04/04() 22:05:24

参考にどうぞ、と渡された写真には青年が幼少の頃夢中になって応援した
「正義の味方」…のようなものが写っていた。
ただ、その手に鞭が握られていることに、青年は違和感を覚えざるを得なかった。
「ふ、ふーん…。強そう、だね。」
「勿論です!それから変身セットといっても煩雑にならないベルトオンリー装備で―」
マリアが話を盛り上げようと声のトーンを上げたその時である。
立っていられないほどの揺れが二人を襲い、高層ビルの向こうから、
「何だあれ……」
天を突く程の巨大な怪物が姿を現したのである。
その物体のちょうど天辺に豆粒大の人影が数個確認出来る。
気配から推し測るにそのうち二つはどうやら随分と上機嫌らしい。
「わーっはっはっ!いやぁー、地球も中々面白い所だな!そう思わないか二人とも?」
「面白さなどどうでもいいんだが…。」
「うわー、このガラモス2035凄いなぁ〜。ビルより高いよ。」

「アレはA級宇宙犯罪者その1から3!左から「暗黒策士アン・デ・ドリア」「悪魔貴公子アルーカ」
「破壊魔王ドラキュー」…とデータベースには恐ろしげな仇名書いてますけど、全部偽名らしいですよ。
そんな事より早く変身しないと…」
人目を避けられそうな路地裏へと青年を連れこむマリア。
「色々説明している暇は無くなりました。早く変身して、
 あのA級宇宙犯罪者達を倒して下さい!そういえば貴方の名前は!?」
マリアが凄い剣幕で変身グッズ―つまりはヘンテコなベルト―を青年に押し付け、聞いた。
「リ、リヒター…だけど。」
「リヒターさん!早く変身してくださいっ。
 このままではこの町は奴らに崩壊させられてしまうシナリオ…
いえ、危険があるんです。奴を倒して!貴方にしか出来ない事なの!」
「…わかったよ。変身ゴッコして気が済んだら俺と一緒に逃げるんだぞ」

何やら叫びまくるマリアを尻目に、早くここから逃げ出したい一心でリヒターはベルトを腰に装着した。

「…で?台詞は。」
「せ、台詞ですか?ベルモンダー!変!身!…なんてどうかなぁ…とか」
「ベルモンダ〜、変身〜」

やる気の無いリヒターの掛け声に呼応し、ベルトが眩く光った。