おやゆび貴公子inドラキュラ学園

 

14 名前: おやゆび貴公子inドラキュラ学園1/5 投稿日: 2006/04/27() 00:53:41

 朝、教室に行ったらなんだか奇態な液体のつまったガラス瓶が並んでいた。
「なんだこれ。誰がこんなモノ持ってきた」
「あ、ラノレフ。おはよー」
 リヒターの席で弁当を食べていたマリアがぶんぶんと手を振る。
「口の中のものを呑み込んでから物を言え。それで、あそこに並んでいる妙なビンはなんなんだ? 
形からするとあれか、こないだからやたらCMしてたポー○ョンか。っていうか、なんでおまえが
ここでメシ食ってる」
「だって部活の朝練でおなかすいたんだもんー。お義兄ちゃんだったらお弁当食べても許してくれるし」
 どうやらリヒターの弁当だったらしい。
 わりと酷い義妹だった。
「あ、でもそのビンが何かは知らない。あたしが来たらもう置いてあったもん」
 もぎゅもぎゅごっくん。最後の一口を呑み込んで、ミルクのパックを手に取る。
「なんか見かけはドリンク剤みたいだよね。誰かのさしいれとかじゃない?」
 教室にはだいぶ生徒が集まりだしていて、みんな珍しそうにビンのまわりに集まっていた。何人かは
手にとって、フタをとって匂いをかいでみたりしている。嬉しそうに飲もうとしているのもいる。
「役にたたん奴だな。おまえは知らないか、アノレカード」
 窓の側でおっとり座っているアノレカードに訊いてみる。理事長の息子であるアルカードは毎日ベンツで
登校するので、だいたい朝一番に教室に入っているのだった。
 朝の光で銀髪がきらきらするのに内心ほわーとするのを、顔に出ないようにぐっとこらえる。
 とりあえず学園総番として、威厳は大切だ。とりあえずは。
「ああ。…その飲み物だったら」
 と答えたアノレカードの手にも、一本例のあやしいビンがあった。
「ちょうど私が学校へ来た時に、C組のジュストが持ってきて」
 ぶ──────────!!!!
 喜々としてビンを口に運びかけていた生徒がものすごい勢いで噴いた。

15 名前: おやゆび貴公子inドラキュラ学園2/5 投稿日: 2006/04/27() 00:54:32

「さしいれなのでクラスのみんなに飲んでもらってくれといって帰っていったが。…どうした?」
「みんな飲むなああああああああああああああああああああ!」
 一瞬にして教室中がパニックになった。
「ぐああああオレ飲んじゃったよおおおお」
「あああああのマッドサイエンティストめえええおおおおおおお」
「だ、ダメだ、俺死ぬ、っていうか死んだ方がマシ……」
 吐く奴、咳きこむ奴、喉かきむしる奴、半泣きの友達の背中をさする奴、間に合わなくて
飲んじゃって床じゅうのたうちまわる奴、もうなんかすごく大変なことになっている。
 2−Cの狂気の科学者ジュスト・ベルモンド、それはこの私立ドラキュラ学園における悪夢のひとつだ。
 科学部部長なのだがしょっちゅうなんだかあやしい発明だの薬品だのを作り出し、なにかと
いうとそれを試したがる。スリ傷作っただけでサイボーグ手術されそうになったとか、カゼ薬と
称して飲まされたクスリのおかげで三か月ほど入院したとか、聞くも涙語るも恐怖の逸話を日々
まき散らしている評判の変態だった。
「なぜみんなそんなに騒いでいる? この飲み物がどうかしたのか」
「おまえも落ちつくなこの天然が! …って、だから飲むなっつってんあああああ!」
 遅かった。
 ラノレフがビンを払い落とすより先に、白い喉がこくりと鳴って中身を飲み下していた。
「このバカ! もしくはアホが! 警戒心ってものがないのかおまえは! あの変態科学者の
持ってきたもんを平気な顔して飲むな、何が入ってるかわからんってのに!」
「セリフの前半が盗作もしくはインスパイヤだ。パクリはよくない」
 すっごく真面目な顔で説教された。
「それに、せっかく持ってきてくれた差し入れを無駄にするのはもったいない。別にまずくはなかったし」
「だからっておまえなあ!」
「あ、でも、なんともなさそうじゃない?」
 ひょこ、と頭を出したマリアがビンを拾って匂いをかいでみている。
「なんか普通の栄養ドリンクみたいな感じだけど。ちょっとクスリ臭いくらい? 単なる差し入れ
じゃないのかなあ。ジュストだってまさか、同級生で人体実験はしないと思うけど」

16 名前: おやゆび貴公子inドラキュラ学園3/5 投稿日: 2006/04/27() 00:55:08

 甘い。それは甘い。
 大○駅前第三ビルの地下の巨大パフェくらいに甘い。
 と思ったが、肝心のアノレカードは、不思議そうに自分の身体を眺めまわしているだけだった。
「…べつに何も起きないが」
 ──あれ?
 よく見ると、のたうちまわっていた生徒たちも何も起きないのがわかって、おそるおそる
起きあがってきたり身体をはたいたりしている。特に何かあったようには見えない。
「…どういうことだ? あのジュストの差し入れで、何もないわけないんだが」
「考えすぎじゃない? それか、ホントにただの栄養剤だったとか。あ、お兄ちゃんおはよー」
「マリア? どうしてここに…ああっ、またおまえ俺の弁当ー!!」
「えへへ、ごちそうさまー」
 そんなほのぼのな兄妹の会話を聞き流しつつ、何ごともなかったように本を読んでいる
アノレカードに、つい心配そうな視線を注いでしまうラノレフだった。


 だがしかし、やっぱりただではすまないのがこういうネタの常。
「せんせーい。アノレカード君がなんだか気分悪そうですー」
 三時限目の世界史の時間に、隣の席の男子が気づいて手をあげる。
「お? どうした、アノレカード。顔色悪いな」
 世界史の百合薄先生が教壇をおりてきて、心配そうに顔をのぞき込んだ。机にうつむいて
眉根をよせて、本当に具合が悪そうだ。
「なんでもない…ちょっと、ふらふらするだけだ…」
「しかし、だいぶ加減が悪そうじゃないか。おーい、誰か保健室連れていってやれ。クラス委員…」
「……いや。いい。一人で……行ける」
 ふらっと立ち上がるアノレカード。
 ふらふらと歩いて教室を出ていく後ろ姿を教室一同見送っていると、いきなり
ガタッと席を立つ音がする。

17 名前: おやゆび貴公子inドラキュラ学園4/5 投稿日: 2006/04/27() 00:55:44

「なんだ、どうしたラノレフ。おまえも保健室か」
「──トイレ」
 ぶすっと答えて、返事は待たずに席を立つ。
 それがトイレ行く時の顔かよ、とは思うが怖いのでだれもつっこまない。
「あー、まあ、なるべく早く戻れよ。あと、煙草は見つからん場所でな?」
 苦笑いで送り出す百合薄先生。なんとなく見当はついているのだった。さすが年の功。


「アノレカード!」
 廊下で追いついてみると、アノレカードは途中で動けなくなったらしく、曲がり角で手を
ついて苦しそうに胸に手をあてていた。
「ラノレフ…今、授業中だろう、教室に…」
「んなもん関係あるか! やっぱりあの変なドリンク剤になんか入ってたんだな、おい、
しっかりしろ、しっかりしろって! アノレカード! おい!」
 ずるずると壁をすべって倒れこむ身体を抱きとめる。
「アノレカード、ア……!?
 びっくりするほどの軽さと細さにぎょっとして心臓が飛び上がりそうになる。
 抱きかかえたアノレカードがしゅるしゅると縮んで見えなくなってしまい、制服がぱさりと
床に落ちる。
「お、おい、アノレカード? アノレカード、どこいった! おい!」
 あの基地外科学者コロス。ぜってーコロス。
 そんなことをすごい勢いで心に刻み込みながら、くたくたと落ちた制服に手をのばす。

18 名前: おやゆび貴公子inドラキュラ学園5/5 投稿日: 2006/04/27() 00:56:16

 縮み上がった心臓が口から飛び出しそうになったのは、次の瞬間だった。
 からっぽの制服がもぞもぞと動いた。
 くたんと落ちたネクタイとシャツの襟のあいだから、きらっと銀色の光がこぼれる。
 ひょこん、と小さな頭がのぞいた。
 小さな小さな。
 リ○ちゃん人形サイズに、小さい頭。

「……ラノレフ?」

 アノレカードだった。

 でも、なんかちっちゃい。
 裸だ。
 しかも羽生えてる。
 コウモリみたいな黒い羽が背中に。
 こう、ぱたぱたと。

 お人形サイズのアノレカードが、ことりと小首をかしげて不思議そうに見上げる。

「……ラノレフ……いつのまに、そんなに大きくなったのだ?」
「────んなあああああああああああああ!?



つづくかも。