悪魔城シンデレラ伝説2

 

32 名前: 悪魔城シンデレラ伝説1/3 投稿日: 2006/05/20() 01:03:04

「今夜はあのお城で舞踏会があるのよ。お城にはそれはそれはもう素敵な王子様が住んでいて、
自分の花嫁にふさわしい美しい娘を探しているんですって(カンペ丸読み)」
継姉リヒターはすこぶる男らしいガニ股でのしのしと――もとい、踊るような足取りでドレスの裾を揺らしながら、
テキトーに魔導掃除機をかけている――もとい、今日も掃除に明け暮れるシンデレラ蒼真の横を通り過ぎる。
「この国中の娘を集めて舞踏会を開くなんて、さすがは王子様。
きっと王子様に見初められた娘は一生幸せな暮らしが出来るに違いないわ(マリア、舞台袖で笑うんじゃない)」
窓の外に広がる風景の奥には、鬱蒼とした深い森に覆われた巨大な城――、
海の如くに深い英知と月の光も恥じ入るほどの美貌、そしてありとあらゆる武術に長ける完璧超人、
アルカード王子の住む豪奢な城。

いい加減ムチャクチャな企画を――ではなく、つらい毎日を忘れるかのように、シンデレラ蒼真は仕事の手を休めて
現実逃避…じゃなかった、夢見るようにその城を見つめた。

「お城で舞踏会…きっと素敵なんだろうな…一度でいい、私も王子様にお会いしてみたい…(やる気ゼロ)」
蒼真のやる気のない呟きは、つらい日々に疲れた主人公の本心に聞こえないこともない。
その台詞に、履き慣れない靴のかかとをかつりと鳴らし、絶妙のタイミングで蒼真の方を振り向くリヒター。
リハーサル参加率皆勤賞の真面目な人柄がしのばれる。格好はどうあれ。
「なんですって? シンデレラ、今あなたなんt」

と、その時。


――ぶちっ。
何かが切れる音がした。

33 名前: 悪魔城シンデレラ伝説2・2/3 投稿日: 2006/05/20() 01:04:11

「(ひそひそ)なあ、やっぱりその衣装ムチャだったんじゃないか? 一応XLらしいけど」
「(ひそひそ)これでもマリアにかなり直してもらっているんだ。本番中に衣装を破くわけにもいかんだろう」
そもそも本番中にふたりして内緒話するなよと突っ込んでやりたいが、そこは大人の嗜みで流して欲しい。


――ぶちぶちっ。

また、何かが切れる音。
それも連続して。


「ほら、絶対どっか切れてるって」
「…いや、俺の衣装じゃないぞ。普通自分の服が切れたら分かるだろう」
「どれどれ…あ、本当だ…それじゃ、あの音は」
「何なんだ?」


――ぶちぶちぶちぶち……っ。
まるで北○神拳の継承者がその真の力を振るう時のように。
超人ハ○クが怒りに我を忘れる時のように。
「お前ら…」
怒りのオーラを身に纏い、震える拳を握り締め。
今にもこめかみの青筋をブチ切らせ、赤く滾る血を噴き出さんばかりの勢いで。


「俺を無視して話を進めるなァ―――――ッッ!!!!!」


あろうことか、今まですっかりその存在を忘れられていた、ラルフ・C・ベルモンド。
その凄まじい咆哮に振り向いた蒼真とリヒターは、次の瞬間、世にも恐ろしい光景を目にすることになる。

34 名前: 悪魔城シンデレラ伝説2・3/3 投稿日: 2006/05/20() 01:05:19

「そもそもアルカードが王子役ならばこの俺がシンデレラ役なのはもはや必然、宿命だろうがッ!!
相談スレ>>157も今の主流はツンデレラだと言っている!!
それなのに!! それなのにだッ!!!
よりにもよってどこの馬の骨とも知れぬちんちくりんの二代目魔王がシンデレラだとぉ!?
認めんッ!! 俺は断じて認めんぞォ―――!!」

死の罠が張り巡らされた闇夜の城を縦横無尽に駆け、跳梁跋扈する魔物どもを鞭の一撃で塵へと還す、
最強のヴァンパイアハンターの名を名乗るに相応しい、鎧の如き隆々たるパーフェクト・マッスルが吼える。
その肉体を覆うのは、優美で繊細な装飾が施されたシンデレラの美しいドレス。
――そしてそれは、ラルフの怒りのパンプアップによって今も縫い目がぶちぶちとほつれまくり、
『かつてシンデレラのドレスであった布』になりかけていた。
そもそもこのドレスは蒼真サイズに誂えられたもの、無理矢理着ればどうなるか。

ヒント:つんつるてん。
    ぱっつんぱっつん。
    ぶちぶちぶちぶち。

見るもの全てが恐怖し、ただただ絶句するほか術を持たない空間の中。


「…あーあ…そうまでして魔王、じゃなかった、主役になりたいのか…」
「こら、あんまりじろじろと見るな。いくらなんでも不躾だろう」
重苦しい沈黙の中、蒼真とリヒターのひそひそ話はまだ続いていた。
目の前のラルフを見る目は、例えるならば『ママーあの人××で○○』『こらっ見ちゃいけません』のそれである。
「でもさ、せめてスネ毛はなんとかするべきだよなぁ、普通」
「仕方がないだろう。お前とあいつとでは体格が違うのを無理矢理着ればああもなる」

「そこの二人ッ!!! ヴァンパイアハンターと魔王がナチュラルに馴れ合ってんじゃね―――ッ!!!!!」

メインキャスト3人、シナリオ進行放棄。
すっかりダメな空気に支配された舞台に無理矢理緞帳が下り、その中からマリアの怒号とラルフの絶叫、
凄まじい轟音が響き渡ったのは、それから3秒後のことだった。