悪魔城シンデレラ伝説3

 

36 名前: 悪魔城シンデレラ伝説3・1/6 投稿日: 2006/05/22() 02:33:06

――緞帳の奥。

「…これでは『シンデレラ』というより…」
そこには、壊れたセットを撤収・再構築すべくてきぱきとID達に指示を出すヘクターの姿があった。
無理してスポットライトを浴びるより、むしろ舞台裏を志願した彼の判断はある意味正解である。
「『四聖獣のなく頃に・祟殺し編』だな」
溜息をつく彼の隣で、リヒターは怒れる義妹と大道具スタッフと自分を労うべくお茶とお菓子を用意していた。
今の騒ぎで縦ロールのヅラがブッ飛んだが、最早探す気にもなれない。
楽屋から漏れ聞こえてくる悲痛な絶叫の主に比べれば、自分はマシな方なのだから。

今からちょうど10秒前。
ラルフの暴挙にブチ切れた衣装担当マリアが怒りの四聖獣召還で彼を舞台袖までブッ飛ばし、
ぶっ飛んできたラルフを移動係レオンがライジングショットで楽屋に放り込み、
そこにアイザックが襲い掛かり、継母専用ドレスを着せるというリズミカルコンビネーションが発動したのだ。
この見事かつ強引な予定調和の前では、いかな俺様ヴァンパイアハンターとて無力化は必至。
「いや、あのコンボは対ラルフ専用迎撃プロセスのひとつだ――これで次から流れが元に戻る筈だ」
「そうだな…そうなってくれるといいんだが…」


「畜生―――!!! 継母役だろうがなんだろうが王子をさらってやりゃこっちのもんだ!!!!!
覚えてろよ若白髪のクソガキ!!! 年季の違いを見せてやる―――――!!!!!」

遠くから聞こえてくる、あまりにも漢らしい継母の絶叫。
ふたりの男は前途多難な舞台にため息をついた。

37 名前: 悪魔城シンデレラ伝説3・2/6 投稿日: 2006/05/22() 02:34:31

その頃、灯りを落とした別の楽屋の中で。
「恥だけは捨てたくなかった…」
舞台を挟んだ間逆の部屋にまで漏れ聞こえてくるラルフの絶叫に呼応するかのように、蒼真がぽつりと呟く。
「でも、ああまでされては――あの男は危険すぎる…!!!!!…有角、許してくれ…
奴を押しのけてあんたの恋人になれるのなら、俺は…シンデレラにでもなんにでもなってやる…!!!」

混沌、もとい煩悩が集まる。
蒼真の瞳が金色に輝き――。

「うおおお―――――っ!!」

そこには、先程までのやる気の無い現代っ子の来須蒼真はもういなかった。
漆黒の微笑を浮かべて無人の楽屋に佇む影は、かつて人々を恐怖のどん底に陥れた…真夜中のシンデレラ。


そんな古い少女漫画誰も知らないよ、という突っ込みはナシの方向でお願いします。

38 名前: 悪魔城シンデレラ伝説3・3/6 投稿日: 2006/05/22() 02:35:19

――かくして、再び何事も無かったかのように緞帳は上がった。

魔物すら震え上がるスカーフェイス、溢れる肉体美を赤のドレスで覆ったド迫力の継母ラルフが逞しい腕を組み、
仁王立ちでシンデレラ蒼真を睨み付ける。
「おいシンデレラ。部屋の掃除はどうした」
だが蒼真とてその程度でひるみはしない。
魔王様スキル『さげすみの目』で継母をねめつけると、嘲笑するかのような口調でアドリブを放った。
「はぁい。あらこんなところに粗大ゴミが♪」
その台詞と同時に、蒼真の背後にゆらりと現れる使い魔・ギャイボン君(5歳)。
すかさず右手人差し指をラルフに突きつけ、
「片付けろッ!!」
ギャース、と元気いっぱいに声を上げて襲い掛かるやんちゃ盛りのギャイボン君。
「テメェ何しやがるこの白髪チbギャアアアアア」
ヴァンパイアキラーで応戦するラルフに向けて、更にポジトロンライフルでの援護射撃。
「部屋の掃除ですけどー?」
「何が掃除だ!!っていうか俺は粗大ゴミか!!うわ銃火器を使うな卑怯者―――――!!!!!」


「マリア…俺はついていけそうにない、緑玉を…緑玉を持って来てくれ…」
「胃薬ならあるわよ?」

39 名前: 悪魔城シンデレラ伝説3・4/6 投稿日: 2006/05/22() 02:37:00

舞台は変わって夕方に。

臨界点突破寸前の怒りに全身をぶるぶる震わせながら、どうにかこうにかすんでの所でこらえつつも
その視線に隠し切れない殺意を湛えた継母ラルフが逞しい腕を組み、仁王立ちでシンデレラ蒼真を睨み(ry
「おいシンデレラァ!! こっちは腹が減ってんだ、食事の支度はまだかゴルァ!!!!!」
だが蒼真とてその程度で(ry
魔王スキル『暗黒の微笑』で継母を生暖かく見つめると、
「はぁい、今日はカレーです♪」
がこっ。
スケルトンボーイLv9の巨大カレーセットがラルフの顔面に命中した。
エイプも併用して間合いを取る事も忘れない。
「……こ…んのクソガキ魔王……!!!!!」
時に空腹は人間の怒りを増幅させる。
ラルフはヴァンパイアキラーをびしりと構え、蒼真を正面から睨み付けた。
「もういっぺん封印されとくかオラァ!!!!!」
「あ、俺間違えてた? 参ったね〜」
そんなラルフの怒りもどこ吹く風、蒼真はいけしゃあしゃあと天然ドジっ子モードで応戦してみせる。
キラーフィッシュのご利用は計画的に。


「マリア、俺こんな設定もう嫌だ…闘技場に、闘技場オーナーに戻りたい…ッ!!」
「リヒター、気持ちは分かるけど、もう少しで出番終わるから。ね?」

40 名前: 悪魔城シンデレラ伝説3・5/6 投稿日: 2006/05/22() 02:38:58

天井でスポット照明作業に励むグラントを無理矢理呼びつけて差し入れの特製大盛スタミナ弁当を持ってこさせると、
ラルフはその仏頂面を隠そうともせずに腹ごしらえを始めることにした。
最早リタイヤ寸前のリヒターはさておき、蒼真が次々と繰り出す攻撃にその怒りは爆発寸前だが、
とりあえずアルカードのいる城に向かう前に食事は済ませておきたかったからだ。
「あのクソガキ…これが終わったらとことんしばき倒してやるからな」
このまま終わるほどヴァンパイアハンター、ラルフ・C・ベルモンドは甘くない。
保護者のアルカードには悪いが、生意気な子供には一度キッツい仕置きをしてやる必要がある。
「……」
そんな継母ラルフの漢らしい食べっぷりを、シンデレラ蒼真は離れた位置に立ち尽くしたままじっと見つめていた。
「なんだ、今度は何を企んでるクソガキ」
「別に。そういえば俺も腹減ったなぁって」
うらやましげにボリュームのある折り詰めを見つめる蒼真に、今度こそ勝ち誇った表情でラルフは言い放つ。
「てめえに食わせる弁当はない!!」
「……」
腹が減っては戦は出来ぬという言葉の現実味は、ハンターならば誰もが肌で知っている。
この瞬間、ラルフは己の勝利を確信した。
「おまえはそこらの残飯でも漁ってろ!!」
「……」
流石に空腹では反撃する力もないのだろう。
蒼真は無言で踵を返すと、何故か舞台袖に置かれている巨大なポリバケツへと向かった。
「ふん、浅ましい事だ――こんな有様ではアルカードも苦労が絶えんな」
ほっぺにご飯粒をくっつけながら、ラルフは無言でポリバケツを漁る蒼真を横目に肉に齧り付く。
この時点での特製大盛スタミナ弁当摂取率、30%。
そして彼の目の前には、ハンター御用達の美味そうな、大きな肉があった。
「やはり美味い肉はいい…俺は幸せだ」
待っていろ、アルカード。
食い終わり次第迎えにいって、放送コードに引っかかるようなあんな事、こんな事…。
ひとり幸せな妄想に浸りながら、ラルフが美味い肉に齧り付こうとしたその瞬間――。

ありえない異臭が鼻を突いた。

41 名前: 悪魔城シンデレラ伝説3・5/6 投稿日: 2006/05/22() 02:39:56

「な、なんだこの匂いは!?」
思わず眉を顰め、美味い肉を折り詰めケースに取り落としそうになったラルフが見たものは――。


「腹減った…」
蒼真の口元には、この世のものとは思えぬ狂気に満ちた薄ら笑い。
「これ…すっげぇ美味そう…ふふふふふ…あはははは…」
手にしたトレイの上のそれを目にした瞬間、ラルフは胃からせり上がるものをぐっとこらえる羽目に陥った。
常温で重ねた年月を物語る、緑やオレンジの毒性たっぷりのカラフルなトッピングとあふれる腐汁。
もはや肉でもなんでもないそれが、並の人間なら死に至りかねない異臭を撒き散らしながら迫る。
更にその横で追い討ちをかけるのは、こちらも賞味期限を3年ほどすっ飛ばしてなお常温保存された、
もはや原形も色も香りすらも留めない牛乳だった筈のもの。
それが自分の真向かいに置かれ、蒼真が薄ら笑いのまま椅子に腰掛けるに至って、ラルフはこれから起こる事を予測し
瞬時に逃げ出そうとしたが――。

「このおぞましく容赦ない地獄の精神攻撃…素晴らしい!! やはりあの少年は真に伯爵様の転生!!」
先程ラルフに継母ドレスを着せつけたアイザックが、いつの間にやら舞台袖で感極まった様子で絶叫している。
(いつからいたんだよコイツ…)
洗濯バサミで鼻を摘んだヘクターの白い横目にもかまわず、目を爛々と輝かせた半裸は背後に控えたIDに命ずる。
「アベルッ!! ハンターを椅子に押さえつけろ!! あのお方を援護するのだ!!」
食事中のファンに申し訳ないかなあと思いつつもそこはイノセントデビルの性。
主人の命令通り素早く飛来すると、アベルはラルフの背後に周り、その逞しい体躯をがっちりと押さえつけた。
「離せ化け物ッ!! そのおぞましいものを俺に見せるなァァ!!!」
っていうか、みんなにも見せるな。
ヘクターは黙ってIDに命じ、緞帳を再び降ろさせる。


「い・た・だ・き・ま・す」
(イメージ音声:バイオハザードでゾンビに囲まれてゲームオーバーになった時のアレ)


悲痛なラルフの絶叫が、緞帳の奥でこだました――。